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「経験学習」~キャリアインテグレート研究会にて
火曜日は法政大学にてキャリアインテグレート研究会という学びの場があり、スピーカーとしてお邪魔してきました。これは、もう始まって3年になる会で、法政大学の諏訪先生を中心にキャリアに思いのある方が集まっています。比較的企業人事の方が多いようです。

事務局から依頼されたテーマは「越境学習」。でも、自分は自分が越境学習者といわれることを否定しているので、タイトルは「決断しないキャリア、つながるキャリア 」としました。ただ、話す内容を考えている頃に中原淳先生の新著「経営学習論」を読んで刺激をいただいてしまったため、結果的には「越境学習」について語ることになりました。ちなみに当日の参加者の皆様に「越境学習」って知ってますかとたずねたところ、7割程度の方の手があがりました。それなりには浸透してきた言葉ですね。

「経営学習論」の中で中原先生が整理されている「越境学習」の定義は以下のとおりです。

『個人が所属する組織の境界を往還しつつ、自分の仕事・業務に関連する内容について学習・内省すること』。

なるほど、シンプルに整理されています。まあ、定義ですからそりゃそうでしょうか。でも、わかりやすいです。

インテリジェンスHITO総研の須東さんは、「越境学習」の効能についてHITO総研の機関紙の「ミドルの未来」という記事の中で下記のように語られています。

『専門性を高める「適切なキャリア行動」として、特に興味深いのは「社外の専門家等との交流」であるという点だ。一方で、社内人脈からの学習はキャリア成果の向上と統計上有意な差がない(効果がない)』。

さらに、実務家でありつつ研究者としても活躍されている石山さんは、やはり「越境学習」の効能についてダイヤモンド書籍オンラインで、以下のように整理しています。

『なぜ、越境学習に効果があるのでしょうか。筆者はその最大の理由として、越境学習には自発的な人々が集まり、お互いに刺激をしあうという効果を挙げたいと思います。(略) しかもそれだけではなく、越境学習によって社内の同じ職場だけではわからない多様な価値観、最新の情報を得ることができます。不確実で環境の変化が激しい時代に、社内の同じ組織文化に馴染んだ人とだけしか付き合わなければ、柔軟に環境変化に対応できなくなってしまうでしょう』。

この分野の研究を深めている舘野泰一さんは共著「職場学習の探求」の中で、社外の学びの場への参加理由を提示してくれています。そのトップ3は、

①自分の知識や技術の専門性を高めたいから
②新しいアイデアや着想を生み出したいから
③多様な人と出会いたいから


であり、「職場の中にいるとストレスがたまるから」「転職・起業に役立てたいから」「漠然とした不安があるから」といったネガティブな要素は少なかったと貴重なデータを提供されています。

実践共同体の研究の第一人者である荒木淳子先生は、外での学びを個人のキャリア観に結びつけてとらえています。

『社外の勉強会などに出ることは、自らの仕事内容やキャリアを他者に説明する機会となり、それがキャリア確立に寄与している』。

そして、法政大学の長岡先生の越境学習についての語りです。ニヤリとさせられます。

『あくまでも「越境」とはメタファーであり、その意味を「職場(組織)外での仕事経験」のみに限定して理解することは、「越境」という概念の可能性を狭めてしまうことになりかねません。大切なのは、「越境」という新たな概念の曖昧さを受け入れた上で、「越境学習」に関する狭い範囲での理解を前提とした安易なツール化・メソッド化を拒絶し、その概念から導き出される新たな可能性をじっくりと吟味することだと、私は考えています』。

さて、多くの方の語りを引用しましたが、実はこの方々が「越境学習」を語る上での今のところの主要登場人物だといえます。グーグルで「越境学習」を検索してみると、これらの方々、そしてこれらの方々のお仲間たち(ラーニングイノベーション論の卒業生とか)のアウトプットばかりが並び、実はこの分野がまだまだ狭い範囲で注目を浴びているだけなんだなぁということを改めて感じさせられます。

ですから、ここまでこのブログを読んだ方は、すでに世の中で流布されている「越境学習」についての基本的な知識は十分に習得できたということになります。

という前提で、質問です。キャリアインテグレート研究会でも同じことを聞きました。

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質問:ここまで得た知識を用いて考えてください。
下記の5つの例の中で「越境学習」に該当するものはどれでしょうか。

①人事担当者同士の会社横断的コミュニティに人事担当者が出る

②新卒で人事に配属になった新卒3年生が、社内での3カ月の営業現場実習に出る

③若手営業担当者が、顧客である社長に商談の中で鍛え上げられる。

④人事担当者が六本木の外人客の多いバーで夜な夜な外国人ビジネスパーソンと英語で交流する。

⑤業務時間外に自主的に都立中央図書館に行き、自分の業務関連の調べごとをして専門性を高める。


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さて、いかがでしょうか。実はこういう問を皆でやると、いかにそれぞれが認識している定義が違うかがよくわかります。さらには「越境学習」というものが、もう少し深くわかってくるような気がします。

当日、手が挙がったのが一番多かったのは、①でした。確かに典型的な「越境学習」でしょうが「境界」をどこに置くのかによって判断は変わってくるかもしれません。人事の人が人事の人とつるんで本当に越境性があるんでしょうか。特に知っている人ばかりが集まる心の落ち着く会なんかで、ほんとうに越境性って担保されるんでしょうか。と、はやくももやもやとしてきます。

次に多かったのは、④でした。これって、ただ飲みに行っているだけじゃないですか。でも「学習」なんてどこでもできるんだ!といわれるとそうかもしれません。

一番少なかったのは、⑤です。『個人が所属する組織の境界を往還しつつ、自分の仕事・業務に関連する内容について学習・内省すること』という中原先生の定義からは、特にははずれていないような気がするのですが、一番支持がありませんでした、というか2人しか手をあげなかったです。「越境学習」という言葉に「他者との交流」ということが無意識に結び付けられているのかもしれません。これはなかなか面白い結果です。

②と③はともに2割~3割くらいの方が手をあげられました。③はまさに20歳代の私が経験していたことですが、自分としては「越境学習」の要素が強かったと思います。ただ、仕事そのものなのでもありますが。なまじ他社の同職種の人間と緩い雰囲気の中で学びあうよりも、年齢も価値観も立場もまったく違う人から鍛え上げられることの方が「越境学習」の伝えるメタファーには私はしっくりきます。
②は社内ごとですね。会社という「境界」を超えていないので「越境学習」ではないと判断した人もいるでしょう。でも、職種という「境界」はがっつりと超えているんですよね。その人にとって、どちらの「境界」を超えることがより学びをもたらすのか、これが大事ではないかと思います。

ということで、キャリアインテグレート研究会での講演の冒頭を紹介してみましたが、えらい長くなりました。明日、続きを書くかどうかは、明日の気分です。

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【2012/09/27 23:25】 | キャリア~全般 | トラックバック(0) | コメント(1) | page top↑
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