人事の書棚から114 「職場学習論」中原淳著 東京大学出版会
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……僕は君の「未来」を思う。
 君が大きくなる頃、この国の企業や組織はどうなっているだろうか。君が勤務する職場は、どのようになっているのだろうか。君は、君自身を成長させてくれる素敵な他者、ともに働き汗を流せる仲間に、何人巡り会えることができるだろうか。
 そんなことを密に思いながら、今は、筆をおこう。
 きっと「未来」は明るい。否、「明るくしなければならない」。私たちの後に続く世代のために、我々の力で、それを明るく照らし出す他にはないのである。

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東京大学の中原淳先生の新著にして初の単独執筆本「職場学習論」は、こんな言葉で締めくくられています。本書は、東京大学出版会から発刊された、いわゆる学術書です。先行研究の整理から始まり、統計処理を駆使した分析・考察により仮説を検証するというプロセスを踏んだ本です。ただ、それに豊富なインタビューによる定性的でリアルなエッセンスが見事に織り込まれており、極めて読みやすい学術書に仕立てあがっています。

そして、読んで感動できる学術書に仕上がっています。すべての人材育成関連者だけでなく、ラインマネージャーに読んで欲しい本です。素直な読後感は、「やっぱり会社って素敵じゃないか」「やっぱり仕事って素敵じゃないか」、そして「やっぱり日本って素敵じゃないか」ということです。そんなことを学術的な見地からいってくださることは、実務家にとってもものすごい心の支えになります。

冒頭でご紹介した中原先生の結びの言葉にはとても驚きました。

実は、この言葉は私の仕事に対する動機そのものなのです。365日24時間仕事のことを考える原動力は、まさにこの気持ちです。自分みたいな小さな存在が何をできるのかはわかりませんが、次の世代のために未来を明るくしなければならないという思いがかけねなしで仕事の原動力になっています。転職した理由もそこにあります。そして、日々あれこれと学びを彷徨い歩いているのも、次の世代のために未来を明るくすることにもっと上手に寄与できることはないかというのを模索しているためでもあり、少しでもそういったことに寄与できるように自分を育てるためでもあります。小さいことでもいいですから、今の大人の世代に属する人たちが、特に人材育成という未来を創る仕事に携わっている人たちが、こういった思いを共有できたら、これはもの凄い可能性が拓けることだと思っています。

こんなに情緒的に学術書の紹介をしていいのかよくわかりませんが、情緒的な紹介をされる学術書というのは、なかなかないと思います。

多くの方に読んでいただきたいので、もう少しだけちゃんとした紹介も付け加えます。

本書が解き明かそうとしているのは、主に以下の2点です。

①人は職場において、どのような人々から、どのような支援を受けたり、どのようなコミュニケーションを営んだりしながら、能力の向上を果たしているのか。

②職場における人々の学習を支える他者からの支援やコミュニケーションに影響を与える、職場の組織要因にはどのようなものがあるのか。

視点はあくまでも「他者」にあります。

本書は6章構成になっています。

第1章は『「職場における学習」の背景をさぐる』として、広く先行研究の紹介があります。中原先生の教えを受けている人であれば、いずれも耳にはした理論が、改めて整理されています。日本のHRを取り巻く環境の変化を歴史的におったり、組織社会化論・経験学習論・組織学習論のおさらいがあります。職場学習論というのは、経験学習論に職場を取り巻く上司・上位者・同僚・同期・部下などの他者からの作用の要素を強く加えたものだとも解釈できます。

第2章から第5章までが、本論になります。
まずは、第2章で職場における多くのタイプの他者の、誰からどのような支援を得ているのかが丁寧に分析されています。その結果、支援の種類を「業務支援」「内省支援」「精神支援」の3つに区分します。その上で、誰がどのような支援を多くしているのかを整理します。
第3章では、職場における能力向上に着目します。向上する能力を「業務能力向上」「他部門理解向上」「他部門調整能力向上」「視野拡大」「自己理解促進」「タフネス向上」の7つに区分します。
そして、何といっても読み応えがあるのが第4章であり、第2章と第3章の結果から、誰がどのような能力向上に寄与しているのかを解き明かします。この章からは、私たちが取り組むべきことをたくさん示唆いただきました。それらについては、またおいおいい整理してブログにも書きます。
そして、第5章では『職場コミュニケーションと能力向上』と題して、業務経験談と能力向上の関係等を解き明かします。ここではマネージャーの振る舞いについても言及されます。
最後の第6章では感動的なまとめとなるのですが、越境学習についても触れられます。これはたぶん次のラーニングバー本(学術書ではないですが)で少し趣を変えて引き継がれるのではないでしょうか。

かなり整理して文字に残しておきたい内容があることと、リフレクションしながら考えを深めたいことがあるので、何度かにわけてまたこのブログでも取り扱わせていただくことになるかと思います。

本書の第2章から第4章までの調査のベースになった富士ゼロックス総合教育研究所と神戸大学の松尾睦先生との共同研究の結果がまとまった際に、富士ゼロックスの営業が「絶対に興味を持たれる調査が出ましたよ」と持ってきていただいたことを思い出します。また、中原先生には、弊社にもインタビューにお出でいただき、私と人事の若手メンバー、営業の若手リーダーにインタビューをいただきました。明らかにそれと思われる引用が何箇所もあり、うれしい限りです。また、他者の目から自社の良さを改めて指摘された感じもし、勇気が出ます。

気づいたらまた情緒的になってきました。

ある意味、この本は中原先生の「働く大人の学習・成長」に関するここまでの6年間の取り組みの集大成であり、これからの一歩への宣戦布告的な本です。

本書は、先般ご来社いただいた際に頂戴したのですが、その際に添えられたレターには「次作の専門書では、何年か先になりますが、経営学習論についてまとめていきたいと考えております」とこれまた凄いことが宣言されています。職場というのは「場」ですから、ある意味では「学習論」は成り立たせやすい概念ではないかと思いますが、「経営」にそれを語るとなると、また一段違ったご苦労があると思います。

いずれにしても、大学という場に身を置かれる専門家である先生方が、実業にどっぶり漬かっている私たちとの交流を続けながら、双方に刺激的なアウトプットがなされるということが当たり前のようになってくると、日本という国の中で、まだまだ魅力的な化学反応が生まれるはずです。それが冒頭の先生の思い、そして私自身の働く動機というか、生きている意義、にきっと結びつくはずだと信じています。

『君は、君自身を成長させてくれる素敵な他者、ともに働き汗を流せる仲間に、何人巡り会えることができるだろうか』。そんな場と仕掛けを作るのは、間違いなく、私たちの仕事です。それが企業内ラーニング・イノベーターが取り組むべき大切な仕事です。

読了後、すぐにブログを書いたのは初めてですかね。酒井穣さんがメルマガの増刊号を出した気持ちがとってもよくわかりました。

職場学習論―仕事の学びを科学する職場学習論―仕事の学びを科学する
(2010/11/05)
中原 淳

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《2010年11月7日》 あまりにも感動できたので、夜をまたずにブログをアップ。もうじき、【やゑくら】派生企画、手打ちうどんの会です。


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