「ご機嫌な職場」 酒井穣著 東洋経済新報社刊
酒井さんのもう何冊目になるのでしょうか、ちょっと遅くなりましたが新著です。結構、すぐに読ませていただいたのでずか、ここに書くのが遅れました。ごめんなさい。本書は酒井さんか講演でノリノリでしゃべっている姿を思う浮かべながら読むとなおさらいいんじゃないかと思います。そう、ご機嫌な感じです。

まず、本書、タイトルでポイント獲得です。もちろんこれは2008年に出て話題になった「不機嫌な職場」な職場に対になることを意識されています。サブタイトルには「職場コミュニティ再構築の方法」とあります。「職場をコミュニティとしてみる大切さ」と「それが壊れつつあるので再構築しようよ」という思いがシンプルにここには込められています。

そして、酒井さんの思いは「はじめに」の最初の数行に凝縮されています。

『どうせ仕事をするなら、明るい職場がいい。いよいよこの考え方が「間違い」であることが明確になりつつあります。明るい職場の意義は「どうせ仕事をするなら」というような小さなレベルではなく、経営にとって最重要の課題になりつつあるからです。絶対に明るい職場をつくる必要があるのです』

そう、明るい職場(ご機嫌な職場)は働く社員にとって心地良いから大事なんだというだけでなく、その方が成果があがり収益があがるという経営的視野においても今や論じられる必要があるのです。

「不機嫌な職場」に多くの人が共感し、「そうそう」「うちも同じだ」と感じてしまった事実があります。多くの職場においてそこに描かれていた話は現実の話だったのです。では、なぜそれが起こったのか。第1章「ご機嫌な職場はなぜ失われたか」では、それが整理されています。

全3章のうち第3章は実践編ですが、第1章・第2章では古今東西の理論を次々と酒井さんなりに解釈しつつ引用してタペストリーのように織りなしていくという酒井さん得意の手法で論が展開されます。これって実際には相当に時間のかかる作業ではないかといつも思うのですが、1つの自分なりの手法を確立するというのは強みですし、だからこそレパートリーも作れる(本もたくさん書ける)のだとほんとにいつも感心させていただいています。

で、ご機嫌な職場が失われた理由については、3つに集約して説明されています。

最初に指摘しているのは「欲求が職場コミュニティを破壊する」。
ここではマズローの欲求ピラミッドを使った説明が面白いです。マズローの欲求ピラミッド説は、おなじみの「生理的欲求⇒安全の欲求⇒親和の欲求⇒自我の欲求⇒自己実現の欲求」の5階層によるピラミッドの奴です。大震災の直後に東京大学の中原先生が、やはりこれを引いて、真に下位欲求が脅かされる現実に直面している私たちを語られていましたが、酒井さんの論点もなるほどと思わされます。高度成長以降、つい最近までの日本においては、生理的欲求⇒安全の欲求⇒親和の欲求は自然と満たされており、自我の欲求⇒自己実現の欲求を追いかけるだけの余裕があったというのです。これらを提供してきた主役は企業です。
しかし、これが徐々に国力の低下とともに、生理的欲求⇒安全の欲求くらいは自己責任で満たせという自己責任論が台頭してきたわけです。となると、安全欲求レベルでの戦いが強まり、親和の欲求は弱体化して他人のことなど気にしていられないという社会が出現してきます。職場コミュニティの弱体化はこういった文脈の中でも語られるわけです。

こんな感じで、様々な理論が紹介され、それを現在的に酒井さん的に解釈・活用しながら話がスルスルっと展開していきます。これ以上細かく内容を紹介はしませんので、是非、実際に本をお手にしてみてください。

日本社会では、高度経済成長とともに少しずつ血縁コミュニティ・地域コミュニティが弱体化していきました。それに反して台頭したのが、職場コミュニティでした。私が社会に出た1985年というのは、職場コミュニティが日本でコミュニティをしっかりと支えていた最後の時代ではないかと思います。会社のメンバーとは家族ぐるみで付き合い、365日濃厚に時を過ごし、仕事以外の部分でも様々な関わりを持ち、何かがあれば職場が守ってくれる、という世界が普通に生きていました。やや濃厚過ぎて、社会にはいってすぐは少しウエッとするような息苦しさはあるのですが、身をまかせると心地良いものでした。確かに、生理的欲求⇒安全の欲求⇒親和の欲求は、自然に満たされていました。

その職場コミュニティが弱体化してしまうと、下手をすると日本には何も残りません。一部では、地域コミュニティの復活の動きはあります。しかし、以前のようなものを期待することは現実的ではありませんし、またそれが良いのかというとそうでもないでしょう。インターネットを通じた新たなコミュニティや、いわゆるサードプレイス的な新しいタイプのコミュニティも生まれ、育っています。これらが私たち日本人の中でどのような位置づけを持っていくかはこれからの話ですが、今のところは職場コミュニティの役割にとって代わるまでのインパクトはありません(ただし様々な可能性を秘めています)。
残業がない会社でも平日は8時間を過ごすのが「職場」です。このコミュニティがどうであるかは私たちの人生に影響を与えないわけがありません。職場コミュニティの再構築は日本社会の今日的なテーマなのです。

ただし、この観点からだけでは企業はなかなか動きません。個人の問題としてではなく、職場コミュニティの再構築こそ、企業収益回復の重要な手段の1つだという観点を投げかけたことが、本書の最大の価値ではないかと感じます。
中村ご店主の尽力により【ちゑや】インスパイア企画が今、各社で拡大しています。中村ご店主自らもこれの促進役を買ってくださっています。これも実は同じ文脈にあるものです。職場コミュニティの再構築は日本再生の大きなキーだといってもいいと思います。

そう考えると夢があります。自企業を良くするための日常の仕事が、日本を立て直すことにつながる、これは素敵なことです。この感覚を皆でもって日々、奮闘していけるとすれば本当に素敵です。そして、うまくいかなくてちょっとつらいことがあったら、是非、会社を超えて連帯しましょう。

ご機嫌な職場ご機嫌な職場
(2011/08/26)
酒井穣

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《2011年10月15日》 ホッピービバレッジ社の石渡光一会長の受章祝賀会でした。良い会でした。イベントを活用して社員のモチベーションを上げつつ、社内の一体感を醸成させようという仕掛けも見事でした。そしてホスピタリティも。体調が順調で飲めればいうことなしでした。


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