戦略的中途採用と「居場所」
東京大学の中原淳先生は、著書「経営学習論」の中で、中途採用者の組織再社会化について扱っています。実は、この分野の知見は新卒者に比較すると驚くほど少ないのではないかと思います。

中原先生はこの中で、中途採用者が「人脈学習課題」「学習棄却課題」「評価基準・役割課題課題」「スキル課題」といった困難に対峙すると指摘されています。転職経験者であれば、うなずける話ですね。

「人脈学習課題」とは、代表的なのは社内政治みたいなものでしょうか。誰に根回しをしておかないとこれはまずいよ、とかいう奴ですね。多くの組織では、職務分掌規程、職務権限規程どおりに世界はまわっていません。どこに地雷があるのかもわかりませんね。

「学習棄却課題」とは、現在の職場では通用しない過去の経験を捨て去ることができるかどうかです。これも難しいですね。でも、けして捨て去らなくてもいいという考え方もあります。最初の3カ月だけ、そっと横に置いておいて、まずは新しい組織のやり方にどっぷりとつかってみればいいわけです。そして、必要があれば3カ月たってから、おもむろに過去の経験を活用し始めてもいいわけです。

「評価基準・役割獲得課題」は、とても説明口調な課題名ですが、自分がどんなレベルの仕事を求められているか、職場における自分の役割がよくわかっているかということです。これが実はとてもアイデンティティに関わります。特にマネジメント以上で転職した場合。

「スキル課題」については、経験やスキルを買われて転職をした場合でも、ほんの些細なところでつまずきます。一番多いのは、メーラーやスケジュラーの違いではないでしょうか。これに慣れないと、業務効率が100倍下がることだってあります。私も一番苦労したのはこれです。

で、先週のワークスシンポジウムの分科会A-3「個を生かす中途採用とは~戦略的中途採用の実態とその課題」の中で、法政大学の石山さんが、この4つを引用した上で、「やはり、新しい組織のメンバーシップを獲得するのは大変!」と整理されていました。まさにそのとおりだと思います。また、「どうしたら裏コード(会社方言)を減らすことができるのか?」とも言及されていました。

そして、土曜日。痛風の発作でびっこを引きながら、訪れた慶應義塾大学丸の内シティキャンパス。今年度最初のキャリアリソースラボラトリーのスーパービジョンです。ここでの花田光世先生からの話でも、転職者の話が出ました。

話はすごく明確です。勝手に自分で解釈して整理をしてみます。

転職者が仲間として認められる瞬間についての話です。転職者を組織が仲間としてインクルージョンしていく場合、転職者は見事に組織社会化を遂げる必要性があるわけです。あくまでも、転職者は最初はマイノリティであり、仲間になるということはマジョリティの仲間入りをできたということになります。いうまでもなく、これでは「戦略的中途採用」にはなりません。

花田先生の考えは、インクルージョンではなく、インテグレーションです。私たち迎える側も、マイノリティに対して当事者意識を持ち、ある意味では全員がマイノリティであるという感覚を持つことなのかなと感じました。大が小を呑みこむのとは違う感覚です。自分も多様なメンバーの1人であると認識し、転職者という新参者とも互いに支援・啓発しながら自分たち自身を成長させていくという世界です。

迎える側も大半が転職者という職場であれば、比較的これは可能な話かもしれませんが、新卒一括採用年次人事運用でがっちり固めた組織となると、容易ではありません。でも、このことの実現が本当に中途採用を戦略というレベルに引き上げることなのかと思います。

もう1つ、個人の側の目線もあります。私たちには組織に属するとき、「居場所」というものが必要です。花田先生は、「居場所」というものは自分自身でしか作れない、といいます。もちろん「居場所」を創りやすくする支援というのはあるんだと思いますが、私も「居場所は自分自身でしか作れない」という話にはとても納得感が持ちます。そもそも1人ひとりにとって、良い「居場所」というのは異なるわけですし。

で、先にあげた「人脈学習課題」「学習棄却課題」「評価基準・役割課題課題」「スキル課題」というのは、「居場所」をつくるための課題でもあります。ここにどう支援をするかというのは、人事の問題です。

ただ、支援ありきだけでは、またまずいのではないかというのも私の意見です。

例えば、営業という仕事をする際に、お客様の社内で誰が決定権者なのかを探るのは仕事の醍醐味です。先方の予算感や、意思決定ルート、機の熟し具合、ライバル会社の動向、こういったものは、当然ですが提示されるものではありません。自らさぐりを入れて確認する中で理解していくものです。そして、これができる営業担当は、たいてい成約率も高まります。

私たちが中途採用で欲しい人材というのも、別に営業ではなくてもこういうことのできる人材のはずです。社内用語が知らされていなかったり、決定権者がわからなかったり、いきなり地雷を踏んだりして、会社にクレームを入れるような人材ではないはずです。

こういったことを素朴に周囲に質問し、自分で少しずつ「居場所」を創っていくことのできる人材です。自分でネットワークへの投資を行い、「居場所」を拡げて行くことのできる人材です。ですから、必ずしも懇切丁寧な中途採用者対応をするだけが、戦略的中途採用につながるとも限りません。もっと抜本的に、マイノリティ対マジョリティという図式の思想から自らが脱して、マイノリティに対する当事者意識を持つことができることが大切です。その点、転職経験者は少し有利でしょうか。

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【2013/06/03 21:22】 | HRM全般 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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