データの見方と引用の仕方、そして天の邪鬼な視点
ベネッセ教育研究開発センターが2008年に続いて、第2回目の「大学生の学習・生活実態調査」を発表しています。

日経新聞はこの調査から引用して、6月15日付の朝刊一面の連載特集「大学は変われるか」の中で、『自分で発表をする演習よりも教員の話を聴く授業が良い」と答えた学生が8割に達した』、と嘆いています。

また、朝日新聞はちょっと前の5月2日付の朝刊「教育」欄で、この調査から2つのデータを引用して、『今時の学生は主体性を失っている』と総括しています。引用していている1つは日経と同じで『自分で調べて発表する演習形式より講義形式を好む学生が、前回より1.3ポイント増え、8割を超えている』と指摘しています。もう1つの引用は、『あまり興味がなくても単位を楽にとれる授業が良い」と「単位をとるのが難しくても興味のある授業がよい」の二択では、前者を選んだ学生が54.8%。前回調査より5.9%増え、過半数になった』とこちらも嘆いています。

まさに導管教育の勝利、楽して学ぼうとする学生像、DSSの辻さんが憤るのも納得できる、という流れです。ただ、どうにも不気味に怖いのは、こういうデータって単に自分がいいたい論調を強化するために引用・利用されがちだよね、という点です。

よくよく拝見すると、本調査は実はかなり広い範囲の内容について聞いているものです。そして、全文がPDFで取得できます。すごいですね。目次です。

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序 章 
○巻頭言 大学教育改革の共通プラットフォームとしての学生調査:神戸大学 教授 川嶋太津夫
○大学教育改革と大学生の学習状況:青山学院大学 准教授 杉谷祐美子
○大学における系統的なキャリア教育・支援の必要性-大学2年生から3年生へと「活用される」働きかけを緩やかにつなぐ-:お茶の水女子大学 准教授 望月由起
○現代学生の「移動」問題-在学中に進路変更を希望する学生の実態と背景-:愛媛大学 准教授 山田剛史
○現代の大学生の人間関係-「先生」「友だち」の存在が大学への着地を促す-:立教大学 学術調査員 谷田川ルミ
○高大の教育接続の課題-学習面の接続を視点として-:Benesse教育研究開発センター 主任研究員 樋口健

第1章 高校との接続
○第1節 大学進学への準備
○第2節 高校と大学の学びの接続
:Benesse教育研究開発センター 研究員 岡部悟志

第2章 大学生活について
○第1節 入学した頃の気持ち
○第2節 大学生の生活実態
○第3節 先生と友人との関係
○第4節 大学への適応と満足度
:愛媛大学 准教授 山田剛史(第1節1~第2節1、第4節)
:立教大学 学術調査員 谷田川ルミ(第2節2~第3節)

第3章 大学での学習
○第1節 大学生の学習状況
○第2節 大学での学習成果
:青山学院大学 准教授 杉谷祐美子(第1節1~2、第1節4~8)
:愛媛大学 准教授 山田剛史(第1節3~第2節)

第4章 海外留学
:Benesse教育研究開発センター 研究員 吉本真代

第5章 大学卒業後の進路
:お茶の水女子大学 准教授 望月由起

第6章 大学生の意識
○1 大学生の社会観・就労観など:お茶の水女子大学 准教授 望月由起
○2 保護者との関係:青山学院大学 准教授 杉谷祐美子

資料編
○調査票見本
○基礎集計表
○調査企画・分析メンバー
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実は私もろくにまだ読まないでこのブログを書いています。
これを引用する人達が、どこまで全体を読み込んで引用されているのかはわかりません。ただ、都合の良いところだけをつまみ食いすることができることは間違いありません。極端な話、日経新聞の記事は、朝日新聞を読んだだけでも書けてしまうのです。もちろん、さすがにそうではないと思いますが。

また、さらに危険なのは、私のこのブログもまさにそうなのですが、引用された箇所だけをまた引用してしまうという行為を人は犯しがちです。フェイスブックのシェアやツイッターのRTといったものがはびこり、引用が引用を呼び、あたかも正しい意見のように見えてしまうという情報の構築のされ方が、ものすごくしやすい世界になっているのです。ですから多くの人が、日経や朝日のこの記事を引用すると、この内容自体が既定の事実のように感じられてきます。
あれこれ引用ばかりせずに、自分はどう考えるかがまずは大切であるにもかかわらず、引用文化はますます強まっています。もちろん、引用には効率的な面、インパクトを与える面などの効能が間違いなくあるので、全否定してはいけません。

もう1つ、この記事をみて怖いなと思ったのは、『あまり興味がなくても単位を楽にとれる授業が良い」と「単位をとるのが難しくても興味のある授業がよい」の二択では、前者を選んだ学生が54.8%。前回調査より5.9%増え、過半数になった』というところです。

確かに過半数の学生が楽な授業を取ろうとしているのは問題かもしれませんが、逆に45%もの学生がそうではないと回答しているのです。これだけ大学進学率が高まり、大学全入といってもいい中で、45%もの学生がそうはいっていないという事実は、逆に無視できないのではないでしょうか。我々が大学生活を送っているときよりも、この数値は向上しているかもしれません。でも、もう1つの引用の80%と並んで書かれると、何となくふむふむと自然に納得してしまいがちですが、この数値をもって『今時の学生は主体性を失っている』と総括するのは、いかがなものかと感じます。

日本人はもっとも活字を信じる国民だと何かで読んだことがあります。自分をみても確かにそんな気がします。ただ、鵜呑みにはせずに、天の邪鬼的にものをみることは、時に大切ですね。

最初は素直に調査結果を紹介しようと思って書き始めたのが、今日のブログはまったく違う方向になりました。言霊ってすごいですね。

H 7LJR 739
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