『非情の常時リストラ』 溝上憲文著 文春新書
本書の著者である溝上憲文さんは尊敬する労務ジャーナリストです。溝上さんのお名前をご存知ない方も、人事のキャリアが長ければきっと溝上さんの文章は何度も読んでいるはずです。いつも、現場の声を丹念に拾い、それを巧みに構成して誌面をお作りになっています。

溝上さんは私をはじめて立石に呑みに連れて行ってくださった方でもあります。初めて溝上さんにお会いしたのは、立石の「宇ち多”」の前でした。それ以来、時折ご一緒させていただいたり、取材をしていただいたりしています。溝上さん得意の覆面座談会的企画にも誰とはわからないようなかたちで潜りこませていただいたりもしています。

そんな溝上さんとしては珍しいと思うますが、今回、新書本を書かれました。タイトルは「非情の常時リストラ」。結構、エゲツないタイトルです。経営危機に陥ったときのリストラではなく、今や、成果主義の旗の下、ある年齢になればリストラの危機は常時私たちの近くにあるということなのですが、実は本書を読んでみると、激しいタイトルや強めの章見出しとはちょっと違って、日本の戦後の人事労務の歴史を自然に学ぶことができる本なのです。このあたりは溝上さんの真骨頂だといえます。

『第1章 「常時リストラ」時代に突入』では、追い出し部屋の話なんかが描かれているのですが、けして扇情的なトーンではなく、きちんと背景を説明しながら筆を進められています。

『第2章 学歴はどこまで有効か』では、ここ10数年の新卒採用の歴史と流れの概要を平易に把握することができます。最近人事の担当になった人には是非、人事労務の歴史を学んで欲しいといつも思うのですが、新卒採用の現代史(?)を学ぶにはちょうどよい内容かもしれません。

『第3章 富裕社員と貧困社員』というのも凄いタイトルですが、ここでは平易に賃金制度の本質が語られています。また、賃金制度と分けては議論できない、資格制度・評価制度にも言及されています。

『第4章 選別される社員』では、配置の問題が扱われています。異動、役職任免、組織といった分野です。さらには、次世代リーダーの育成にまで筆は進みます。

最後の『第5章 解雇規制緩和への流れ』は、安部内閣が一瞬だけ本気で着手するかにみえた解雇に関する規制緩和を取り扱います。この章の最後は「会社員になる意味」という単元で終わっています。そこには次のようなフレーズが並んでいます。

選別主義が逆説的に、会社人として生きる働き方から日本人を解き放ち、多くの人たちを1人の個として自由に生きる働き方に変えていくのではないか

会社が何かを与えてくれる時代は終焉を迎えている。自分の人生を切り開くのは会社でもなければ経営者でもない。何かを実現したい、何かになりたいと思う自分しかいない。その覚悟を持つことがいま最も求められているのだ

仮説・検証というプロセスにとらわれることなく、取材に基づく現場の情報を積み上げて、ある面では情緒的な色合いも添えて筆を走らせることができるのが、ジャーナリストの特権ではないでしょうか。。そんなジャーナリストの視点から、溝上さんには是非、日本の人事労務現代史を編纂していただけないかと思います。それは新しいタイプの新任人事労務担当者のテキストにきっとなるはずです。本書にしても、実は編集の視点を大きく変えるだけで、まさにそのままそんなテキストになりえるのではないかと思える内容です。

あとがきにこんなフレーズがあります。

「本書は私にとってこの20年間に取材してきた事実を集大成したようなものである。」

読み終えてみてまさにそう感じるとともに、まだまだですともあえていいたいと思います。是非、違うテイストの真正面からの集大成をいつかお待ちしています。次回、呑んだらそう絡もうと思います。

非情の常時リストラ (文春新書 916)非情の常時リストラ (文春新書 916)
(2013/05/20)
溝上 憲文

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