蔓延する問題解決症候群とどう戦うか
このブログであれこれ書いたことの再整理ですが、あるところに年末に書いた記事です。タイトルは「蔓延する問題解決症候群とどう戦うか」という、なんかもの凄いタイトルがつけられてしまっています。

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私たちは常に膨大な「問題」と戦っています。解決すべき「問題」に追い立てられ、悩ましい「問題」に囲まれながら、私たちは日々の仕事と対峙しています。書店に足を運べば、「問題」の解決の仕方を指南する書籍が何冊も平積みになっています。そう、「問題」を解決すること自体が、私たちの仕事そのものになっているといってもいいでしょう。

ところで、「問題解決症候群」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。現在は特定非営利活動法人 産学連携推進機構 理事長をつとめる妹尾堅一郎氏が20年も前に指摘した言葉です。当時、妹尾氏は英国から日本に帰国したばかり。日本の大学で教職についた直後であり、日本の大学生の気質に強い違和感を得たのでしょう。

「問題解決症候群」とは、次の3つの症状からなります。

問題解決症候群(妹尾堅一郎)*********************************************************
症状①:問題は与えられるものである。
症状②:与えられた問題には必ず1つの正解がある
症状③:その唯一の正解は誰かが知っているし、場合によっては教えてくれる


いかが感じるでしょうか。
妹尾氏の帰国から20年を経た今になっても、日本はまだ「問題解決症候群」から脱却しているとはいえません。そしてこの傾向は、大学生だけではなく、私たちビジネスパーソンにも蔓延しているのではないでしょうか。

すでにお気づきの方も多いと思いますが、この「問題解決症候群」蔓延の理由の一端は、明らかに日本の学校教育にあると推察できます。しかし、欧米キャッチアップ型の経済成長を遂げた高度経済成長期においては、ある意味これは合理的な態度であったのかもしれません。

MITでメディアラボ所長をつとめる伊藤穰一氏は、あるインタビューで次のような指摘をしています。

日本と米国は、教育とラーニングという違いがあるんじゃないかと思う。出題者が求める答えを返すと満点になるのが教育で、出題者の意図とは違うけれど、出題者をひっくり返すほどの答えなら満点になるのがラーニング。日本はまさに教育国家でしょう。権威にいかに従うかを教えている。規格品をつくる工場労働者を育成するためには必要かもしれませんが、多様化の時代になり、オリジナリティが求められるようになると、権威に従う人材より「それはちょっと違うんじゃない」と言える人材のほうが重要です。
伊藤穰一(MITメディアラボ所長)


妹尾氏、伊藤氏の指摘する「根」は同じです。
わかりやすいのは、4択のマークシート試験の例です。いうまでもなく、問題は与えられています。そして、4択の中に必ず正解が1つあります。そして、その正解は出題者が当然ですが知っています。こういった試験で高い得点を獲得できた人が、日本では優秀だと認識されてきたわけです。これでは、出題者を超える次世代は絶対に育ちません。もちろん、大学入試などでも考える力を問う意欲的な出題をする大学も増えてきています。ただし、これには大学側も出題と採点に膨大な労力を必要とします。

企業の新卒新入社員研修は、「問題解決症候群」から新入社員をいかに脱却させるかの戦いの場となっているといってもいいでしょう。
ほとんどの新入社員は研修の中でも、正解を探して彷徨います。考えて自分のアイデアを出すように、とどれだけいっても、研修担当者が何を求めているかを深読みしようとします。彼ら彼女らがイメージする優等生、できる新人としてふるまおうとします。問題解決症候群の大きな副作用の1つは、「間違えることを恐れて発言を控えること」です。これでは、新しいアイデアは出てきません。
しかし、新入社員を一概に責めるわけにはいきません。彼ら彼女らは日本の学校教育に最適適応するために、そのような思考法を長年にわたって身につけてきたのです。人間も生き物ですから、進化論的に環境に最適適応にするようにできているのです。

新入社員だけが「問題解決症候群」の病魔におかされているわけではありません。私たちビジネスパーソンも自らを十分に疑う必要があります。課長が具体的に求めていることは何かを考えつつプレゼン資料を作成する担当者も、社長が何を考えているか慮って態度を保留している取締役も根っこは同じです。「問題解決症候群」は、いまだに社会の隅々まで蔓延しているのです。

世の中のパラダイムが大きく変わってずいぶんと時間がたっています。

仕事のタイプが工場的大量生産を中心とした「定型型」から「非定型型」に変わり、ビジネス世界自体は大量の情報を迅速にさばくことに価値を置く「情報処理型」から、新しい何かを産み出すここととに価値を置く「知識創造型」に変わってきました。いまや競争力の源泉は、「効率性」ではなく、「創造性」です。もちろん「効率性」はないがしろにされているのではなく、十分条件から必要条件に変わっただけです。同じことを「隣の会社よりも上手に早くやることは」は競争力の源泉ではなくなりました。「隣の会社が絶対にやらないこと」をやらなければならないのです。

こういった社会では、「問題解決症候群」にとらわれている人材に、満足のいく活躍を期待できないことは自明の理です。「隣の会社よりも上手に早くやること」が大切だった時代は、お手本があった時代です。より勤勉に仕事に取り組み、一生懸命に日々を過ごせば勝てた時代です。そして、ある意味では「答え」があった時代です。いまや、ビジネスに「答え」がないことなど、誰もが頭ではわかっています。さらには、「問い」さえ自らが立てなければならないことも頭ではわかっているはずです。

慶應義塾の塾長を務められた独立行政法人日本学術振興会理事長である安西祐一郎氏は、今の大学キャンパスで不足しているのは「主体性」と「多様性」だと指摘しています。まさにこのことが「問題解決症候群」からの離脱のヒントになります。
安西先生のいう主体性とは「自分の目標を自分で見いだし、実践する力」です。ある意味、自分の人生に問いを立てることでもあります。安西先生は、主体性をはぐくむ学習方法に関して、2つ大切な視点を指摘しています。1つは、多様なメンバーからなるグループでのワーク。もう1つは、答えがない学習です。
大学でもグループワークは増えてはきました。しかし、知っている仲間同士で、先生から与えられた課題に取り組み、先生が既に知っている答えを目指すといったタイプのグループ学習では、主体性は芽生えません。これは企業内の研修でも同じことです。居心地の悪い多様性に溢れる仲間同士と一緒に、答えのない問題にチャレンジする必要があるわけです。主体性は多様性の中で育まれるのです。

大手企業はこぞってダイバーシティに取り組んでいます。ダイバーシティとは多様性です。しかし、多くの企業ではダイバーシティ推進と女性の活用推進がイコールであるかのごとき捉え方をしています。これは大きな間違いです。ダイバーシティの問題は、企業の創造性発揮の問題と直接つながっているのです。
永年にわたって多くの人に読み継がれている「アイデアの作り方」の著者ジェームズ・W・ヤング氏によれば、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」といっています。つまりまったく新たしいアイデアが突然生まれるということは、そうそうないわけです。そうなると、いかに「既存の要素の新しい組み合わせ」を起こりやすくするのかが、創造性の競争におけるポイントになります。同質的な人間ばかりが集まった集団よりも、ダイバーシティにあふれた集団の中で、「新しい組み合わせ」が起こりやすいことは、誰もが理解できることでしょう。やるべきことが決まっていた時代は、均質的な人材を集めて効率的に大量で同質的な作業をこなすことが企業の競争力の源泉でした。しかし、世界は一変しました。ダイバーシティは、企業の競争力確保のために、今まさに必要となっているのです。この文脈を理解し間違ってはいけません。

「問題解決症候群」は、受け身的な態度と、恥をかきたくないという価値観と結びつきやすいものです。ここには日本の国民性の問題もあるかもしれません。繰り返しになりますが、解決の糸口は、主体性の発揮です。そして主体性を醸成する仕掛けとし、多様性(ダイバーシティ)の重要性、そして常に答えのない取り組みをし続けることの重要性をみてきました。

冒頭で、『私たちは常に膨大な「問題」と戦っています』と書きました。しかし、私たちが本当に戦うべきなのは、目の前の「問題」ではなく、実は蔓延している「問題解決症候群」なのです。

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※記事とはほとんど関係ないですが「三岳」の大量販売です。ここんところの家酒のメインですが、いいですよね、これ。

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