「人事と法の対話」守島基博・大内伸哉著 ~書籍紹介2014-01~
アベノミクスでも労働法の見直しはいろいろと取りざたされていますが、なかなか進んではいません。というか、あまり本質的なところまで踏み込める感じは伝わってきませんね。労働法=労働者を守る、労働法改革=強者の横暴・労働者をふみにじる、という短絡的なマスコミ報道と、それを鵜呑みにする世論がこの背景にあるともいえます。まあ、困った企業も確かに存在しているので、無理のないところではありますが。

確かにHRMを生業としていると、窮屈な日本の労働法制に閉口させられる感は多々あります。現実の人事管理の求めるものと、労働法制によって求められるもののギャップには、多くの人事パーソンが悩まされています。

本書はまさにタイトルとおり「人事と法の対話」です。

ありそうでなかった書籍です。そしてすべての人事パーソンにお薦めの書籍です。HRMに携わる人ならお馴染みの一橋大学の守島先生、つまり人事管理の専門家と、労働法の専門家である大内先生の対談により、HRMの各要素について、労働法の視点とHRMの視点をぶつけ合います。章ごとに異なるテーマを扱い、その対象は、採用、正規社員非正規社員、評価と賃金、人事異動、人材育成、WLB、メンタルヘルスと産業医、退職・解雇、高齢者雇用、労働紛争、グローバル人事と拡がります。それにしても、大学教授でありながら、このリアルな現場感を持っている守島先生は凄いです。

いずれのテーマでも、最初は労働法と人事管理が相反する思想のように論じられます。事実間違いなくそういう面はあります。例えば、第10章の「労働紛争の解決」ではこんな感じです。

『我々法律家は、労働組合法というのは非常に重要な法律だと考えています。そもそも労働組合というのは、憲法第28条で保障される団結権、団体交渉権、団体行動権という権利に基づいて結成され活動するものです。そこで想定されている労働組合は、企業と戦う存在です。(中略)労働法では、労働基準法とか、労働安全衛生法とか、最低賃金法という法律でガチッと最低基準を定め、その上乗せは、個々人では弱い労働者が組合を結成して、対等な交渉を通して、労働条件の引き上げをやっていく、そこでは徹底的にストライキとかをやって闘ってもいいというモデルなのです』(大内)

『優良な企業というか、普通の企業の場合には、敵対的なモデルというもの自体があまり前提とされていなくて、労働組合というのは協調的に、例えて言えば同じ船に乗って進んでいくパートナーという理解が多いようです。(中略)逆に企業の方でも、先ほど申し上げたような、協調的な労使関係を築けない企業、築く気のない企業がだんだん増えてきています。』(守島)

労働法は、企業性悪説というか、企業は放置しておくと変なことをするので法で縛っておかねばならないという発想に基づいています。でも、多くの企業はそんなことをいわれなくても、企業の幸せと従業員の幸せの双方を念頭に人事管理をしているわけです。そうでない一部の企業には労働法の縛りはなくてはならないものですが、逆にそういう企業は労働法をないがしろにした企業運営を行っていたりします。それらの企業を縛るために、優良企業の行動が制約されるという現実が存在していることは不合理であり、日本全体にとってはいいことではありません。このあたりが労働法の一番、難しいところです。

ただし、お2人の対談は、けして平行線をたどりません。大きなベクトルは実は違っていないのです。

労働法は、労働者の個人としての権利、尊厳、幸せ、公平性を守ることを第一義とします。何よりも労働者を大切にしているのです。
そして、人事管理の世界でもほとんどの企業は人を大切にします。ただし、人事管理の世界では、個人ニーズだけではなく、当然ですが企業ニーズにも寄り添います。この部分が大きな相違点ではありますが、どんな業種であっても継続的に強い企業であり続けるためには、従業員を大切にすることは、また必須です。

本書は労働法という視点を借りて、人事管理の全体像を考え直す良い機会をくれます。人事の仕事は好きだけど、労働法はなんとなく毛嫌いしているという人事パーソンは少なくはないでしょう。そんな人こそ、是非とも紐解いて欲しい書籍です。

今年は読んだ本をちゃんと記録に残しておこう、などと今のうちは思っています。

人事と法の対話 -- 新たな融合を目指して人事と法の対話 -- 新たな融合を目指して
(2013/10/09)
守島 基博、大内 伸哉 他

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